昨日の夕刊に紀伊半島は田辺市、闘鶏神社境内にあるクスの木が掲載されていた。南紀を題材にした連載コラムとして、紹介されているのだが、掲載写真を見ると、木の傍らにはジャングルジムが置かれ、子供たちが当たり前のように、周辺で遊んでいる姿が見られた。
闘鶏神社には樹齢千年ほどのクスが何本かある。友人の音楽家、中川晶一朗に連れられてこの神社を訪れたのは、昨年の夏のこと。彼はこの地で幼年期を過ごし、闘鶏神社境内が自分の庭のようなものだったとのこと。自身、「熊野のクスノキ」という曲を作っており、そのイメージとなったのが、冒頭のクスの木だという。
クスで、樹齢千年といえば、まだ育ち盛り。青年のようなたくましさを漲らせているものだが、ここのクスたちも皆元気に青葉を茂らせていた。それらが何の柵もされることなく、境内にたたずんでいる姿は、おそらく中川氏が幼少の頃親しんだ姿と寸分も変わらないだろう。
私たちが訪れた日は丁度夏祭りの日で、クスの木陰に男たちが小さな宴を開いていた。時折落ちるお天気雨が程良い清涼剤となり、木々も瑞々しさを増している。私はそっと幹にもたれ掛かり、天を仰いだ。葉の間から差す光がシャワーとなって降り注ぐ。雨上がりと共に一斉に鳴き出す蝉時雨。光と水と音とが見事なハーモニーを奏でていた。
木を奉るのも良いが、やはりこうして手で触れ、寄りかかり、あるいは登れてこその木ではないだろうか。
田辺のクスは今も子供たちにとって、格好の遊び場になっている。